待ったなしの砂糖菓子

2023年2月1日

 ファッジは、レモンケーキと並ぶ、当店の冬の定番菓子です。

毎年、平均気温が20度を下回る頃からスタートし、20度を上回る頃に終わります(11月頃~3月頃)。

見た目はブラウンシュガーの角砂糖のようなこのお菓子。ジャンルとしては金平糖やキャラメルと同じく、砂糖菓子の仲間です。

イギリスではメジャーなお菓子らしく、ハリーポッターに登場する個性的な人物の名前にもなっているほど。けれど、日本ではあまり見かけないお菓子でした。
そもそも私の製菓のきっかけは、「物語に登場する、すごく美味しそうなお菓子たち(そしてお料理)。けれど、近所のお店では見たことがない。買えるアテもない。…ならば調べて作ってみよう!」という、くいしんぼうな好奇心。ファッジも勿論、その候補でした。

ファッジには、大きく分けて、バターファッジとチョコレートファッジがあり、中でも当店のファッジは、バターファッジと呼ばれるタイプです。
(海外ではチョコレートファッジも人気のようですが、当店ではなかなか納得の行くものに成らず、今も蔵の中…。)

閑話休題。
バターファッジの材料は、砂糖とミルクとバター。それを、溶かし混ぜて、煮詰め、結晶化させ、固め、冷まして切る。シンプルこの上ないレシピです。
けれどシンプルならば簡単かといえば、絶妙なプレーンオムレツの難しさにも似て。なかなかどうして、作り手泣かせなお菓子です。

当店のファッジは、無塩バター・エバミルク(無糖練乳)・グラニュ糖をベースとして、紅茶のファッジには紅茶葉を。カモミールのファッジには乾燥カモミールを加えて作っています。

材料を溶かし合わせて、125℃~126℃まで煮詰め、温度に達した所で急冷しながら一定速度で生地を練って結晶化させて型に流し込み落ち着かせ、粗熱が取れたら固まりきる前に裁断して、完全に冷まします。

曲者なのがこの「125℃」と「結晶化」の2点。
煮詰め方が足りないと一昔前に流行した生キャラメルのような柔らかなヌガー状になりますし(それはそれで美味しいのですが、ファッジとは言い難いまた別の砂糖菓子に…)、煮詰め過ぎるとバターが分離してしまい脂の浮いた飴になります(これはもう本当においしくない代物に…)。

温度が適正でも、混ぜ方が足りず結晶化不足だと(これまた)テロンとした柔らかく流動性のあるヌガーが出来上がり、こちらは不思議と、いつまで経っても・どれだけ冷やしても固まりません。また一方で、無心で混ぜ続け冷まし過ぎると型に流すための流動性もなくなり、ほんの一瞬の差でポロッポロのフレーク状態になります。(こちらは味と食感はしっかりファッジなので、つまんで食べる分にはサクサクで美味しいのですが…形が悪いため正規品には成らず、切れ端と共に久助行きとなります。)

一緒に入るもの・その日の室温・気候などによって、生地の状態もかかる時間も結晶具合も常に変化するため、ファッジを作る時は毎回、道具と材料を前に、「仕上げまで一本勝負待ったなし!」の試合に臨むような心境で作っています。(そのため、ファッジはどんなお菓子より、人の気配の少ない早朝や深夜に作ることが多いです…orz)

ファッジはとても素朴な見た目の、シンプルな構成のお菓子です。
写真映えとは無縁ですし、とても甘いので好みも分かれます。販売面でも、毎回店頭に出した途端に飛ぶように売れる!とか、万人受けするのでどなたにも安心しておすすめできる☆とか、老若男女に大人気です♪といえるお菓子でもありません。(我ながら、書いていて本当に好きなのか?と心配されそうだわ…と思いましたが、私は勿論大好きですよ…!)(自分が好きでないお菓子は作れません。)

けれどその一方で、当店のお菓子の中でもダントツ一番にお客さまが笑顔で(時に困り顔で)「愛称」を付けてくださることの多いお菓子であり、高めの熱量と共にお買い求めいただいているお菓子であり、毎年コツコツと旅立っていく、「根張り」の強い丈夫なお菓子でもあります。
そういえば、気に入ってくださる方に「あまり見かけない」「忘れられないお菓子」として挙げていただくことの多いお菓子かもしれない。と、この記事を書いていて気付きました。

作り手としては、ファッジは「小さなお菓子」をご用意するきっかけになったお菓子でもあり、喫茶室を始めた頃から作り続けているお菓子です。

気付いてみればもう随分付き合いも長く、数え切れないほど作り続けているお菓子でもあり。…そして、これからもきっと作り続ける限り毎回ドキドキする、常に初心を忘れ「られない」お菓子です。(失敗すると結構な割合で「何故私はファッジを作るのか…」と、哲学半分逃避半分の思考の迷路に没入したくなったりもします。)(が、仕込み中は大体毎回諸々タイムトライアルなので、大概すぐにコンロ前に帰還します。)(反復。)

主張は控えめ。けれど出逢えば強烈な印象を残し、忘れがたい。
個性強めなので、もちろん相性はそれぞれ。ご感想も賛否両論、様々に。
それもまた、ひとつの特質なのかもしれない。とも思う、今年の冬です。

今年のファッジも、3月頃まで販売予定です。
毎週の小さなお菓子の端っこに、ちょこんと並んでお待ちしております。
シンプルでありつつトリッキー。別名・道草の悪魔のお菓子。
もしもお好みに合いましたら、お楽しみいただけましたら幸いです。

(おまけの話)
昔、お隣の各務ヶ原市在住のnuwasuさん(大好きなぬいぐるみ作家さん)に描いていただいたサインに添えられたファッジ氏。
当店のファッジが人格を持ったなら、確かにこの顔に違いない…!と吹き出しつつとても嬉しくなりました。
お菓子作りに失敗したときにこの絵を見ると「よーし、もう一回がんばろうー!」と、元気が出ます。だいすきです。感謝!

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