月のように

2023年1月22日

丸形、正方形、長方形、ハート(クローバー)型、楕円形。
ふわふわ、サクサク、もちもち、パリパリ、みっちり…。
ワッフルには、形も食感も、様々なタイプのものがあります。

その中で、当店のワッフルは丸くサクサクのタイプです。
そのまま食べても、もちろん美味しい。
季節のフルーツやクリームなどのトッピングをのせても美味しい。

ボリュームはしっかりあるのに、食感はとても軽く、まるでほんのり甘い雲を食べているような。食べ終わった時、そこにあったことが幻のように思えるような…。

目標とするワッフルは、レシピを考え始める前から記憶の中にありました。
それは私が初任の頃暮らした高山の街で大好きだった喫茶店のワッフルです。
(今はもう閉店されたお店なので、お名前を出すのは差し控えます。)

コロナ禍で休業中の期間は、今後の営業方針について考える時間でもありました。
飲食・観光業(に限りませんが…)の氷河期と言われる2020年以降。
人気店でも老舗でも閉業を余儀なくされる中、当店は吹けば飛ぶような週末営業の個人店。

先は見えない。不安も頭痛の種も山積み。けれど、一つずつ算段したり、時にはある程度割り切り、諦め、思い切っていくしかない。家康ではないけれど、「待つこと」が最適解のときもある。いずれ再開したときのために、今、どうするか。何をし、何をしないか。辞める予定は、今も、ないのだから。
喫茶を休んでいる時だからこそ、出来ることもあるはずだ。と。

お客さまと再会できた時には、喫茶室ならではの、大好きなお菓子をお出ししよう。
さて、何にしようか。
そう考えた時に最初に頭に思い浮かんだのは、まだ勤め始めたばかりの二十代の頃大好きだったお店の、お月様のようなワッフルでした。

初任の頃、高山の学校図書館に勤めていた私の一番の「とっておき」は、お給料日近くの休日に、そのお店でワッフルをいただくことでした。

幸いなことに、私にとって高山はとても水の合う土地でした。職場の先生方、図書委員さんはじめ子どもたち、司書仲間、バイト先の深夜スーパーの職員さん、街で知り合った方々…今も続くご縁にも数々恵まれました。
もちろん、念願だった司書の仕事は、とても楽しくて。

けれども、知人も伝手もない土地での、親元離れてほぼゼロからの二十代。気を張ってもいましたし、失敗もそれはもう(…)色々とあり、落ち込むことも眠れないことも反省することも多くありました。お金も今以上にありませんでした。
(この食いしん坊の私が、二桁の減量に成功(?)したことも…今となっては、遠い思い出話ですけれども…。)

けれど、どんな月のどんな心境の時でも、そのお店で焼きたてのワッフルを前にしたひとときは、とても心の休まる静かな時間でした。

夢のように軽いサクサクの生地は、シュガーバターでも十分に美味しくて。
特別良いことがあった月や友人と行くときは、トッピング付きのスペシャルメニュー。それはもう、素敵にしあわせな真ん丸でした。
シンプルな時も、スペシャルな時も、食べ終わる時にはいつもまた頑張る元気が湧いてきていました。
いつだったかとても凹んだ日に食べ終わった空っぽのお皿を見た時には「欠けてもいずれまた満ちるお月様みたいだ。」と思ったこともありました。

記憶の中のそのワッフルにはまだまだ追いつけていないところもありますが、当店のワッフルも、召し上がってくださったお客さまに笑顔になっていただけるような軽さと美味しさを目指しています。
(なお、冷めきると味が変わってしまいますので、焼きたての温かい内にお召し上がりいただくのがオススメです…☆)

昨日の営業日には、ご注文くださった常連さんが、(お水を注ぎに出たところ丁度)とても幸せそうなお顔で召し上がってくださっていて、内心とても嬉しくなりました。

また別のお客さまからは、お帰りの際に「おいしかった。気付いたらなくなってて、おかわりしたくなりました…!」との感想をいただきました。

ありがとうございます。美味しいものって時々、気付いた時には消えてますよね。とお返事しつつ、とても嬉しかったです。(おかわりワッフル、前向きに検討させていただきます。)

当店の青いお皿の上のワッフルも、いつかどなたかにとって、小さなお月さまのような小さな幸せになったら…と。密かに大きな夢を見つつ、次の週末も生地を準備してお待ちしています。
(生地を一定時間以上寝かせた方が焼き上がりの具合がよりきめ細かく軽くなるため、最近は前の晩に一日分を仕込んでいます。)

焼き上がりまでに20~30分ほどお時間をいただきますが、もしタイミングが合いましたら、お楽しみいただけましたら幸いです。

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