小麦粉について

2025年5月12日

今夜は満月。
花盛りの月の喜びを表して、5月の満月は西洋でフラワームーンとも呼ばれているそうです。
(その雅称に合わせて、今回は最近撮った花の写真を文章の区切りにさせていただきます。)

さて本日は、小麦粉についての小話をお届けします。
 
当店で現在使用している小麦粉は、すべて北海道産の国産小麦粉です。
薄力粉1種類と強力粉2種類を、作りたいお菓子に合わせてバランスを変えつつ使用しています。
 
どちらもとても美味しい粉ですが、色あい、手触り、使いやすさ、風味など…特徴はそれぞれ異なります。
 
客観的なデータとして、()内に小麦袋に記載されていた加工業者さんと、各銘柄の特徴を表す灰分・粗蛋白率を転載しましたので、そちらも合わせてご覧ください。
なお、小麦粉の灰分とは、(大まかに言うと)ミネラル分のことです。
灰分が少ないほど粉の色は白くなり上級粉とされますが、灰分が多いほど粉の味わいや焼き色が強くなり、香ばしくなります。
 
私は昔から灰分高めの小麦粉の香ばしさや甘みや旨み、ザクッとした食感がとても好きなので、今でもお菓子を作るときには薄力粉だけでなく灰分の高い強力粉も加えることが多いです。(自宅では手順を簡略化して、両者の中間にあたる灰分率の中力粉を使用しています。)
また、小麦粉の粗蛋白率とは、グルテンの多さのことです。
粗蛋白率が高いほど吸水率も高くなり、コシの強いもっちりとした食感になります。
 
分かりやすい例を挙げると、小麦粉からグルテンを丁寧に抽出し主原料としたものが、生麩です。生麩の歯切れのよさとなめらかなモチモチ感は、まさしくグルテンの特性そのもの…!と思います。
さて、前置きが長くなりました。
ここからは、店で使用している銘柄をひとつずつ紹介してまいります。

・ドルチェ
(江別製粉:灰分0.34%;粗蛋白9.1%)
 
北海道産の薄力小麦粉です。
焼き菓子を作ることが多い当店で、いちばん多く使用している銘柄です。
とてもおいしい粉なので、初めてドルチェでマドレーヌを焼いたときは、味わいの差にとても驚きました。
 
サクサク香ばしいクッキー類にも、しっとり仕上げたいケーキ類にもよく合う、とても懐の深い粉です。
 
食感や香りはレシピに合わせて七変化しつつ、どのお菓子もとても美味しく仕上がるので、今では当店の焼き菓子・蒸し菓子に欠かせない土台のような小麦粉になっています。
・キタノカオリ
(江別製粉:灰分0.49%;粗蛋白12.4%)
 
北海道産の強力小麦粉です。銘柄名は小麦の品種名そのまま。鮮やかな黄色の小麦とのことで、粉も自然な淡いクリーム色をしています。
 
水分とも馴染みが良いので、食感もしっとりなめらかに仕上がり、甘味も強いです。歯切れの良さと口どけの良さも、とても好きです。
 
粉の甘みをしっかりさせたいときや、焼き色を強めに仕上げたいとき、組み合わせることが多いです。
 
・スペルト小麦 石臼挽き全粒粉
(bakerista:灰分1.13%;粗蛋白12.2%)
 
北海道産の強力小麦粉です。
石臼で滑らかに挽かれているため、香ばしさは全粒粉らしく強めでありつつ、食感はとても穏やかです。胚芽なども一緒に挽かれているため、色あいは少しだけ褐色みを帯びていて、味わいにもコクがあります。

数千年前の古代小麦(原種)に近い特徴を持つミネラル豊富な小麦と言われており、最近はパン屋さんでもよく目にするようになりました。
 
ナッツのように濃厚な旨味と力強く重層的な香ばしさが、私もとても好きです。スコーンなど粉を主役とする焼き菓子に使用することが多いです。

最後に、昔からある小麦粉について、少しオマケ話など。
 
・リスドオル
(日清製粉:灰分10.7%;粗蛋白0.45%)
 
小麦粉と粉末麦芽をブレンドした中力粉(準強力粉)です。
昔々、シュトレンを販売していた頃には店でも使用していた、とても好きな粉です。
 
フランスパン用の小麦粉として有名ですが、しっとり感も保ちつつ香ばしくサクサク軽い食感に仕上がるので、現在は自宅でパンケーキや料理を作るときに使っています。 
・スーパーバイオレット
(日清製粉:灰分0.35%;粗蛋白6.2%)
 
多産地ブレンドの薄力粉です。蛋白含有量が少ないので、ケーキはフワッフワに軽く。クッキーはホロホロとした口溶けに仕上がります。
 
高校生の頃、ポルボロンを教えてくださったマドレ(修道女)のレシピには、この銘柄が指定されてありました。
薄力粉の中にも種類がある。種類によって味が全然違う。ということを教えてくれた、思い出の銘柄です。

今ではスーパーでも手に入るようになりましたが、当時は近所の店にはなく、岐阜駅近くの製菓材料屋さんへ自転車で走ったのも懐かしい思い出です。

お菓子に好みやブームがあるように、小麦粉にも好みやブームがあります。

…やや小麦粉オタクな話になってしまいますが、
シュワっとした口どけの優しさを求めるならば「特宝笠」も好きですし、「赤煉瓦」で作るクッキーの懐かしくなるような香ばしさも好きです。
サクホロの食感について考えるならば「エクリチュール」も楽しいです。
「はるゆたか」のパンは勿論おいしいですが、個人的には「春よ恋」のどこかホッとする味わいが好きです。
 
けれど矢張り、現在店で使用している3種類の粉は、様々な銘柄の中でも飛び抜けて今の私にとって一番好きで欠かせない、「相棒」とも言える銘柄になっています。 

お米も野菜もそのほかの食品も様々な理由により(在庫も価格も…)揺らぎの多い現代ではありますが、どうか出来るかぎり長く、この粉たちを使ってお菓子を作り続けていきたい。と願ってやまない、今日この頃です。

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