テイクアウト用のおやつとしてご用意しているホットビスケット。
時々お客さまから「これはスコーンとどう違うの?」というお尋ねをいただきます。
店頭では出来るだけ短くお伝えするよう心がけているのですが、語れば長くなるのがお菓子の話。今日は、スコーンとホットビスケットについてのお話を、すこし。
スコーンといえば、イギリスのティータイムに欠かせないもの。
何も入らないシンプルなものと、カレンズという小さめの干しぶどうが入ったものが定番です。
クワッと大きく膨らんだ形は、「オオカミの口」とも言われます。
外はサクッと香ばしく、中はしっとり柔らかく、溶けるような崩れるような優しい食感が特徴です。
基本的にジャムやクリームを挟んでいただくことを前提としているためでしょうか、生地自体もほんのり甘く、シンプルな構成のものが定番です。
(なおイギリスでもお店や土地によっては、チーズ入りやナッツで顔を象ったものなど、昔から作られている個性派もあります。)
対して(ホット)ビスケットは、アメリカ南部の代表料理です。
日本で「ビスケット」というとクッキーと同じ薄い焼き菓子を連想しますが、南部アメリカにおける「ビスケット」は、クイックブレッドとも呼ばれる酵母を使わないで作るパンのようなもの。焼き菓子やお茶のお供というよりはもう少し食事寄りでボリュームのある、そのまま食べられる軽食です。
レシピを比較してみると、スコーンよりもビスケットの方が生地自体の甘さは控えめ。生地の層は見られますが、工程が少し異なるためか、スコーンの「オオカミの口」のような膨らみにはなりません。
型で抜くタイプもあれば、柔らかめの生地をカップに流してマフィンのように焼くタイプもあり、食感はスコーンよりもザクザク・ホロホロとしています。私感ですが、型で抜くタイプにはパイのように軽いもの(某チキン屋さんのビスケットはこのタイプですね…)からスコーンによく似たタイプのしっとり重めのものまで様々あり、カップに流し込むタイプにはよりキメの細かい…みっちりホックリとした食感のものが多いように感じます。
スコーン同様、ビスケットのレシピでもプレーンは基本となりますが、軽食としてそのまま食べることを前提としているためでしょうか、干しぶどうやくるみをはじめ、ドライフルーツやナッツやハーブを加えて焼くレシピも様々あるようです。
※なお、近年では某大手珈琲チェーンさんのようにチョコや茶葉や複数の具材を加えるタイプのことは、クラシックなイギリス風スコーンとも南部風ビスケットとも区別するため、アメリカ風(シアトル系)スコーンと呼ぶ向きもあるようです。
さて。ここで密かに(?)懺悔をば。
スコーンとビスケットについて、以前お客さまから「どう違うの?」とお尋ねをいただいた時には「(歴史以外では)卵が入るか、入らないかの違いのようです」とお伝えした時期があったのですが、その後も色々と調べる内に、どうやらそうとも言えないらしい。ということが判ってきました。(その節は不勉強にて失礼いたしました…;)
なお、当時の私が卵の有無が名前の差なのかと考えた理由は単純です。
ビスケットは先にも書いたとおりクイックブレッドの一種で、基本的に小麦粉・乳・膨張剤・塩・砂糖を組み合わせて作ります。
対して、スコーンのレシピとして代表的と言えそうなもの――イギリス王室の厨房が公開しているレシピや、世界的な料理学校の代名詞ともいわれるパリのル・コルドンブルーのレシピをはじめ、当時読み比べたレシピにはどの本にも卵が入っていたため、私自身もスコーンとホットビスケットの差は、「卵が入るか否か」なのかな。と考えていました。
けれど、その後イギリスのレシピを読み漁るにつれ、イギリスの老舗であるHarrodsやCLARIDGE'Sなどが公開しているスコーンのレシピには卵が入っていないことを知り、どうやらそう(卵の有無)とも言い切れないようだ…と知りました。
クリームとジャムを乗せる順番でも論争になると言われるほど、本家において歴史も親しみも深いイギリスのお茶菓子の四番バッター、スコーン。
そして、「これが上手に作れたら嫁に行ける(※)」とも言われたという南部アメリカ家庭の基本料理。軽食の代表選手、ビスケット。(※ジェンダー面にふと、昔の歴史を慮りつつ。)
どちらも私の手にはあまりに余る、大きなものです。さて、困りました。ここまで連連と書いてきたものの、歴史面には大きく差があるこの二種ですが、レシピ面では残念ながら、未だ明らかな差の確証が持てません。
……というわけで、大変申し訳ありませんが、「スコーン/ビスケットの違い論」につきましては、この辺りで一度棚に上げさせていただきます。
(また新たな知見を得ましたら、ご報告させて頂きます…☆)
そして現時点で唯一ハッキリとお伝えできること――何故当店(本と道草)ではこのおやつを「ホットビスケット」と呼ぶのか――というタイトルの件に、ひょいと話を飛ばせていただきます。
当店の名付けの理由は、(例によって例のごとく)シンプルです。
1★お客さまに、ぜひ温めて召し上がっていただきたいため。※
2☆根底となっているレシピがアメリカのものであり、レシピ名も「ホットビスケット」だったため。
3☆そのままでも(≒何も付けずとも)具入りで美味しいものにしたかったため。
(※当店のホットビスケットは、チルドの肉まんと同じくらい、温めるか否かで味が激変します。
600Wで20~30秒チンするだけでも格段に美味しくなりますので、ぜひとも温めていただきたく…!)
(★店頭ではオススメの温め方を書いた月報号外もお渡ししています。是非お収めください。)
なお、今年のホットビスケットは、しずく型から四角形に変わりました。
(通販でお送りする際に、隙間のロスを減らしたいと考えたため。)
配合や焼き時間も合わせて見直し、膨張剤を減らしたため昨年より膨らみは控えめになりましたが、代わりに粉と乳成分と具の割合を増やし、よりホロホロ食感になりました。
定番のオレンジとハーブのほか、新フレーバーも続々登場予定です。
お楽しみいただけましたら幸いです。