ふたつのクリスマスケーキの話・1~クリスマス・プディングのこと~

2024年12月11日

クリスマスケーキ。
というと、どんなビジュアルを思い浮かべますか? 

純白のクリームに苺が飾られたショートケーキは日本の王道ですし、
切り株の形をしたブッシュ・ド・ノエルは、名前のとおりフランス風。
シュトレンはドイツのアドヴェント(クリスマスの4週間前~前日までの期間)で大切にされていますし、
アメリカではケーキよりもクッキーの方がクリスマスのお菓子として定番のようです。
栗のクリームをたっぷり巻いたモンブランも『白い山』という名前のとおり季節にぴったりですし、
甘いものが好きな人も苦手な人も一緒に美味しく食べられる(お酒にも合う…♪)チーズケーキも、安定の人気です。

さて、当店のクリスマスケーキは2種類ありますが、どちらも丸く、黒いです。
そしてどちらも、洋酒漬けのドライフルーツとナッツ、スパイスをたっぷり加えて作ります。

今日はそのひとつめ、喫茶室でお出ししているクリスマス・プディングについてご紹介します。
 
記録を確認してみたところ、開店翌年(2014年)からご用意している、当店の12月の定番となっている蒸し菓子です。

元々のレシピは、イギリスで古くから愛されているクリスマスの郷土菓子。「クリスマス・キャロル」や「ハリー・ポッター」をはじめとした英文学にもよく登場しているお菓子なので、名前を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
(クリスティには、「クリスマス・プディングの冒険」というそのものズバリな短編集もありますね。…さすが英国を代表するミステリの女王…。)
 
閑話休題。
そのオリジナルレシピをもとに、新鮮なヘット(牛脂)が手に入りにくい代わりに発酵バターを加えたり、生パン粉の代わりに小麦粉を使用したり、岐阜の柿を入れたり…と変更や工夫を加えて、当店風のプディングになっています。
 
とても贅沢で、なかなか個性的なお菓子ですが、幸いお客さまには毎年喜んでいただけています。
先週の営業日にも、
 「12月はこれよねー!」 「今年も楽しみにしてました」 「今日はこれをテイクアウトで…」 「プリン…いえ、やっぱり、今日はこちら(プディング)で」 「今週はいくつ大丈夫?」 「名前は聞いたことあったけど、初めて食べました」 「ぜいたく…」
…と、それぞれの言葉と表情で楽しんでくださる様子に、とても嬉しくなりました。
 
今年のクリスマス・プディングは、
・パンダニス(アルザスの郷土菓子)をてっぺんに置き
・その上に、脂質高めの純生クリームを泡立ててのせ
・ほんのりとスパイスをきかせたメレンゲとサンタさんのピックを飾り
・軽く温めてお出ししています(イートインの場合)。

カリカリの食感とアニスの風味が楽しい焼き菓子「パンダニス」は、フランスアルザス地方でクリスマスの頃に作られる郷土菓子です(金貨を模した祝菓子とのこと)。
その種類もレシピも(プディングと同様に)様々あるそうですが、当店のパンダニスは小麦粉・卵・砂糖・アニスを練って絞り、一昼夜しっかり表面を乾燥させてから焼く、シンプルな配合のものです。
 
本体部分(とクリーム)はイギリス風。飾り菓子(パンダニス&メレンゲ)はフランス風。というこの様は、ご本家の形(大きく丸く作り→ブランデをかけて火を点し→火が消えてから切り分け→クリームを添えていただく。)に馴染んでおられる方には「おや?」と不思議に思われるかもしれません。けれど「それも含めて道草さんらしい」と笑って気に入ってくださった常連さんの言葉もあり、今年もこの組み合わせでご用意いたしました。
 
なお今年の材料は、7種類のドライフルーツ(プルーン・レーズン3種・あんず・クランベリー・無花果・オレンジピール・りんご)を其々に合う洋酒にひと月ほど漬け込み、使用する1週間前に全体をマリネし、ナッツを加えて馴染ませています。

そこにすりおろした柿・バター・小麦粉・卵・自家ブレンドのクリスマス用スパイスを合わせてぐるぐると撹拌し、型に入れて蒸気の上がった蒸し器で約2時間、ゆっくりじっくり蒸し上げています。
(※以前お客さまに教えていただいたのですが、本家イギリスでは目の細かい布に包んで茹でるレシピもあるようです。)
 
蒸しはじめの最初の頃には型から大きくはみ出すほど膨らんだ淡い茶色のプディング生地が、1時間を超えるあたりから少しずつ縮みはじめ、2時間を超える頃には毎年ご覧いただいている艷やかで真っ黒モチモチのコロンとした姿に落ち着きます(アルコールは飛びますが、香りは残ります)。
 
クリスマス・プディングは別名を【プラムプディング】と呼ばれるほど、プルーンをはじめとしたドライフルーツがたっぷり入った贅沢なお菓子です。
素朴な見ためとは裏腹の芳醇な香りと味わい。
そして温めたプディングのふわふわ柔らかな食感(冷めるとウイロウのようにモッチモチになります)。
…そんな重ね重ねのサプライズも好きで作り続けているお菓子ですが、「聞いたことはあるけれど実物は初めて見た」「珍しい」とのお声もしばしばいただきます。

確かに、作る手間や材料等のコストの割には、個性の強いお菓子なので…数年間は、それはもう見事な大赤字でした。
 
けれど幸いにも気に入ってくださるお客さまに恵まれて。その人数も、おかげさまでとても嬉しいことに年々増えていて。
今では「本と道草の12月といえばこれ」と言っていただけるようになり、「季節の看板メニュー」のひとつとなりました。

(※初登場の2014年頃は、こういう佇まいでした。
リング型を切り分けていたので、食べかけのような写真に…orz) 

作り始めた頃にはひとえに好きで作っていたこのお菓子ですが、近年は「おいしいものが好きで、時には静かに過ごしたいお客さま」向けに始めた小さな店だからこそ、毎年こうして楽しんでいただけているお菓子なのかもしれない。とも、思いはじめています。

 
今後も長くお届けしていきたい、大切にしたい核がぎゅっと詰まった、「クリスマスのお菓子」です。
お楽しみいただけましたら幸いです。

(☆明日は、当店のもうひとつのクリスマスケーキ「ダークフルーツケーキ」についてご紹介します。)

(※2021年・2022年12月の道草月報から一部抜粋&内容を今年に合わせて編集しています。)

 
☆クリスマスギフト、受付中です☆ 
※受付を終了しました。(12/13追記)

12月12日(木)21時まで(店頭・通販とも)
▽くわしくはこちら▽
2024年のクリスマス・セットについてhttps://www.hontomichikusa.com/2024/12/10148

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