十周年記念てぬぐいのこと

2023年11月5日

てぬぐいが好きです。
広げれば大きく、たためばコンパクトになり、色も柄もとても自由で一枚の絵のようなものもあり。
木綿の手ざわりも気持ち良く、乾きも早く、洗いっぱなしでも重宝しますし、アイロンをかければ暖簾やタペストリーのように飾ることも出来ます。
好きな点を挙げれば他にも色々浮かんできますが、とにかく好きです。
(私の箪笥には、ハンカチやタオルよりてぬぐいの方が多いほど…。)


この9月に喫茶室が十周年を迎えるにあたり、何か記念に作りたい。と考えはじめ。
当店のロゴや看板絵を気に入ってくださるお客さまもいらっしゃり、それがとても、嬉しくて。私自身も大好きなこの二つのモチーフを、十年の節目として何かしらの形にできたら、楽しんでいただけるかもしれない。と思いました。



せっかく食品(消えもの)以外でご用意するなら、実用的なものがいい。
形が残るなら、長く使えて、老若男女どなたでも自由に重宝するものがいい。
自分で持っていても、誰かに渡すのにも、それほど迷わず気負わずに、気軽に手にできるものがいい。

…という辺りまで考えて、自分自身も長年愛用している「てぬぐい」がポンと浮かびました。


おそらく唯一、形の残る商品となるものなので、ここぞとばかりに色々と希望を詰め込みました。

色合いは、喫茶室入口のルーフと同じ、鮮やかなピーコックグリーンを地の色に。思い切りよく一色ベタ染め&白抜きでお願いしました。

手触りの良さや吸湿性を考えて、生地は浴衣にも使われる国産の特岡生地を使用しています。(実用品として、欠かせないポイント…!)

裏までしっかり染まる注染てぬぐいが大好きなのですが、当店のロゴは線の細い部分が多いため、工程的に注染は難しく…。
けれど良い業者さんにお願いすることができまして、印刷(表面プリント)ではなく反応染めの手法を使い、出来るだけ裏まで同じ色になる(注染てぬぐいの染め抜きに近い風合いになる)ように染めていただくことが出来ました。

今後十年(以上?)かけてのんびり販売していく心づもりで、色々えいっと奮発しましたが、お願いして本当に良かったです。

おかげさまで自分が一番嬉しいかもしれないくらい、自慢のてぬぐいが出来ました。


今回のてぬぐいに使用している特岡生地は、肌ざわりも良く丈夫な国産木綿(目のしっかり詰まった織りの生地)なので、どんどん使って、ガシガシ洗って、クタクタに使い込んでいただけましたら幸いです。

(私も早速1枚を枕カバーやハンカチや三角巾として使い込んでいますが、ひと月ほど経ち、そろそろミミのほつれも落ち着き、生地もクタクタに良い感じになってきました…☆)


 【手ぬぐいの特性について】
・手ぬぐいは、短辺が「切りっぱなし」の仕様です。
最初の内は洗濯後に糸のホツレが出てきますので、長すぎる糸のみカットしてください。端のホツレは使う内にだんだん少なくなり、落ち着いていきます。

・染色の製造工程により、小さな色抜けや色の揺れ、若干のにじみ、かすれ等が生じる場合があります。

・木綿糸の特性上、小さな粒や不規則な筋が生じたり、晒の糸のつなぎ目が目立つ場合があります。

・生地裁断の際に太めの針でとめる為、出荷時に針跡が残る場合があります。
・洗いの作業がある為、出荷時にわずかなシワが生じる場合があります。
・ディスプレイの設定によって、実際と異なる色に見える場合があります。

 少し手のかかる部分やムラのある点もありますが、染めの手ぬぐいの味わいとしてご理解いただけますよう、お願い申し上げます。

【絵と文字について】
 当店のロゴ(飛行機・本・珈琲・店名)は、各務原市のデザイン会社、リトルクリエイティブセンターのIさんとYさんに。
 看板絵(植物)は、長野在住の友人Nさんに、開店時に描いていただきました。

 このふたつのイラストを元に、今回のてぬぐいのデザインは店主自身で起こしました。
 余白には、店主が小学生の頃に学校図書館で毎日のように目にしていた好きな標語と店の営業開始年を、エスペラント語に訳して付記しています。
 言葉の方は時を経てすこし変化した思いも足して、「本は種のようなもの」という意訳にしています。

【なぜエスペラント語?】
 エスペラント語は、帝政ロシア領時代を生きたユダヤ系ポーランド人の眼科医、ルドヴィコ・ザメンホフが創案した人工言語です。すべての人の第2言語(橋渡し言語)として、国際補助語を目指して作ったといわれています(1887年に最初の単語帳も出版されました)。

 私がエスペラント語を知ったのは中学生の頃のこと。宮澤賢治がきっかけという、とてもミーハーな理由でした。もちろん賢治のように使いこなすことはおろか簡単な会話も覚束ないですし、今回の意訳も恥ずかしながら、辞書を片手に首を捻りつつという状態です。

 けれど、日本語ではやや主張が強くなりすぎる「本にまつわる好きな言葉」を、別の言語で添えたい。と考えた時、英語などの「誰かの母国語」ではなく、エスペラント語の生まれた時代背景と願いへの共感とともに、この「橋渡し言語」を使いたい。と思いました。

 とても小さくて軽い一枚のてぬぐいですが、僭越ながら、どなたかがこの言語を知る一つのきっかけになることがあれば、嬉しいです。

 土地柄、気候、水の多寡。種類の好みやタイミングや相性もありますし、花が咲くか実が生るか。草木が生えるか根が這うか。どう育つかは種次第で、植えた場所次第。中には枯れたり、芽が出ないものもある。長く保つものもあれば、すぐに傷んでしまうものもある。積み重ね、変化して、伝え継がれて、消えて残っていくもの。
 すべては植えて、世話をして。様子を見てみて、時間が経って分かること。

 そんなところも、本と植物の種は、どこか似ているようにも思います。

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